やり残しなく

一度しかない人生ですので、出来るだけいろいろなことをやっておきたいです。

私は患者さんに平均寿命までは節制をして健康な状態を保ってほしいと思っております。
ただ、平均寿命を越えればあとは考え方によってはおまけの人生と言ってよいと思います。
これ以後は好きなことがあれば、その事をして頂いて、もしそれにより寿命を縮めるようなことがあったとしても、本人が納得されているならばそれでも良いのではないかと考えております。

私がこのような考え方をするようになったのは、以前に私が診ていた患者さんで90歳位の方に出会ったからです。
疾患名は何か忘れましたが、主治医の私に「城之崎の温泉に行きたいのですが、だめですか?」と質問されました。
この時に、患者さんの状態を考えると許可を出すのは非常に危険でしたので、「今の状態だと、寿命を縮めると思いますので、無理はしないほうがよいでしょう。」と説明しました。
その後しばらくしてから「城之崎でこの患者さんが死亡された」と聞かされました。
その時に、はじめは無理な旅行をされたために寿命を縮められたと思いましたが、あとで考えると、この方にとって城之崎まで旅行に行けたことは非常に有意義であり、旅行に行かれずにあとしばらく長生きされたとしても本人にとってそれがよかったのだろうかと考えると、旅行へ行かなかったほうが悔いが残ったように思われました。

この時に、この患者さんははじめから旅行を考えておられたのだと思いました。

あとで、このときには「現在の状態では旅行は非常に危険ですが、危険を承知でしたら行かれてもよいと思いますよ。」と言ってあげるべきだったと思いました。

医者に意見を聞かれる場合、「悪いとわかっていることでも出来たら許可してほしい」という気持ちがあると思うからです。高齢になられたらこのように危険と思われる行為も危険性の説明を加えた上で許可してあげてもよいのではないかと思います。

はじめに書かせてもらったようにこの区切りにする年齢が「平均寿命」または「健康寿命」と思っております。この歳を過ぎられたら、後は患者さんの希望を考えながら治療をしていくのでもよいのではないかと思います。

医者としては失格かもしれませんが、

今この事を書きながらある先生のことを思い出しました。
20年以上前に、あるヘビースモーカーの先生に禁煙を勧めたことがありましたが、「喫煙が体に悪いことはわかっている、肺ガンになって死ぬかもしれない。ただ、今禁煙をし好きなタバコをやめたとして、長生きできたら嬉しいが、もしそれでも肺ガンになったらその時に悔いが残ると思う。だから喫煙を続けるのですよ。」と言われたことがありました。

その時にはそれで納得してしまいました。

ただ、今なら「禁煙治療をして平均寿命まで健康で長生きをして、平均寿命を過ぎたらまた喫煙をはじめたらどうですか」と言いたいと思います。

最近のテレビ番組に「妖怪人間ベム」というものがありました。
私たちの世代ではマンガで「早く人間になりたい」というフレーズがあったのは覚えていました。
ただ不気味だったのでマンガの本は読んでいませんでした。

なぜこの話を取り上げたかと言いますと、この話の中に「倒産した元会社社長がやりたい事をノートに書きつづっていて(それもなわとびで二重とびをしたいなどという簡単なことですが)それを実行していく」という話がありました。

このようにやりたい事をノートに記入して、それを適当な年齢時に行うようにしていけば、やり残すことがなく人生を過ごせるのではないかと思います。

危険を伴うものは平均寿命を過ぎてから行う。そのためにも平均寿命までは元気に過ごせるようにしたいものです。

やりたいことをノートに記入していき、やりたい度と危険度を考慮して、やりたいことを優先し、危険性の高いことを後回しにするなどして実行する順番をつけて、どんどんやりたいことを実行していただけたらと思います。